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 現芝浦工大学長・江崎玲於奈さんがノーベル物理学賞を受賞して
今年が30年にあたるということで、「半導体サイエンスとバイオ
サイエンスの30年の進歩をたどる」と題した記念フォーラムが行われ
ました。会場は東京プリンスホテル。1000人近い方が集まりました。
 まず、江崎玲於奈さんの講演が始まりました。「エサキダイオードを超える半導体
超格子の誕生とその発展」と題した講演。江崎さんといえばトンネル効果。トンネル
ダイオード。半導体の世界は今やテラ(10の12乗)の世界になっているそうです。
 3.5インチのFDが1メガ(10の6乗)。DVDレコーダーなどはギガ(10の9乗)
の世界になっています。まさに原子の世界に迫っています。
 ご自身の経歴を含めて、半導体技術の進歩について講演していただきました。
 1925年生まれとは思えないお元気なかたでした。東大からソニーそしてIBM
につとめられ、1992年から筑波大の学長。そして現職に至っています。
 下の一番右の写真は、超格子の説明です。
 次の講演は、東大生産研究所の
榊裕之教授の話。江崎先生ともいろいろな
関係がある方で最先端の半導体技術に
ついて講義していただきました。
 この15年で半導体分野はとんでもない
進歩を遂げています。
 LSIの定価が、1ビット/円だったものが
1Mビット/円になりました。こんなに
値下がりした製品はほかにありません。
 FET(トランジスタ)の技術を使うと
例えばフラッシュメモリーであるとか
LEDと呼ばれる半導体レーザーなども
開発することができるようになりました。
 量子箱や量子細線。カーボンナノチューブ
の話までいくと本当に原子レベルです。
 最先端技術のすごさに驚きました。

 アレキサンダー・グラハム・ベルの言葉も印象的でした。
「時には踏みならされた道から外れ、森の中に入ってみなさい。そこではきっと
あなたが今まで見たことのない何か新しいものを見いだすに違いありません」
 どんな素晴らしい発見も失敗が成功に導いてくれています。何もしないでじっと
しているのではなく、やってみることの大切さ。これは松井選手や長谷川投手など
メジャーリーガーの考え方でもあるし、白川英樹先生や田中耕一さんのノーベル賞
にしても元は失敗だったのです。江崎先生の言葉では「Creative Failure」
つまり創造的失敗ですね。

 半導体の中に周期的に10nm(ナノメートル)の長さのものを入れると、禁止帯と
導電帯のバンド構造を作る。これが超格子。その中でブロッホ振動なるものが起こり
電気的絶縁破壊が起こる。あまり意味はわかりませんでしたが、原子レベルで
すごいことが起こっているんだなと感じました。

 最後に2つの知的能力に関する江崎先生の考え方をおっしゃいました。
 ひとつは分別力。つまり、知識を獲得しそれを解析し理解する力。
 もう一つは創造力。想像力と先見性のもとに新しいアイデアを生み出す力。
個性的、未知への挑戦をする力。
 このうち、分別力は年齢とともに発達し、想像力は年齢とともに退化する。
その交点が、45歳ぐらいらしい。というものでした。考えさせられました。
 
 若い日の江崎先生の写真やノーベル賞受賞式の
写真も出てきて興味深いものになりました。
 江崎先生の話の中で興味深かったのはまず、
 自然科学を志すものとして意義深い言葉です。
 ひとつはコスモス(宇宙)そしてライフ(生命)
です。コスモスは物理学つまり法則性を追求し
物事を単純化しようと追求します。
 これに対して生命は複雑です。ライフサイエンス
は複雑化し、それに対して対処します。
 つぎに20世紀の大きな業績の説明がありました。
 ひとつは原子が何であるかがわかりを見ることが
できるようになったこと。
 2つめは遺伝子の発見。そして、技術的には
マインド(知)つまりコンピューターです。
 1939年名古屋に生まれた利根川先生。
京大理学部化学科を卒業したものの分子生物学
に興味を持ちアメリカに渡ります。USCで出会った
左の写真のDulbecco先生もノーベル賞受賞。
師弟関係3代にわたりすべての人がノーベル賞
を受賞しているすごい家系です。共通しているのは
指導しないことです。一人一人が研究者として
独立している証拠なのでしょう。
 その後、スイスのバーゼル免疫研究所に行き、
そこでの業績でノーベル賞を受賞することになりま
す。しかし、行きたくていったわけではないことも
わかりました。人間何が幸いするかわかりません。

 ノーベル賞受賞のもとになった研究は、抗体が
なぜ何千何万とある病原菌に対して活動することが
できるかという話です。1000個の遺伝子から
10の9乗の組み合わせを作ることができる。これが
謎を解決するヒントとなりました。順列・組み合わせ
の世界ですね。
 下の写真はMITです。
 
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きたさん紀行
 その利根川さんは現在脳科学の研究をしています。養老先生も有名
ですが分子生物学からヒトゲノムの話へ。あれだけ高等だと思っていた
人間の遺伝子とチンパンジーでは99%まで遺伝子が同じ。ねずみでも
70%は同じ。はえで60%、毛虫で20%だそうです。チンパンジーと
人間の違いは抽象化という知的能力だといわれています。
 
 昔、デカルトが「自然科学では人間の心はわからない」といいました。
思考によってわかるのだといういわゆる二元論です。
 これに対して、脳科学者は人間の心は科学によって究明できるという
驚異的仮説をとなえました。二重らせんのクリックです。(上の写真左)

 短期的記憶は、脳の海馬で行われています。そこに注目し手利根川
さんは研究しているそうです。海馬のある組織をひとつだけ破壊した
ねずみに50本の電極をつなぎ(上の写真)、コンピューターで解析しま
す。まだまだ解明までには時間がかかりそうですが、やり続けたいと
いうことでした。これからの研究成果に期待したいですね。
 講演のトリは、MIT(マサチューセッツ工科
大学)の利根川進教授。1987年にノーベル
医学生理学賞を受賞しています。
 バイオサイエンスの30年の進歩は自分の
歴史でもあるとご自身の研究の歴史を語って
いただきました。
 右の写真は、有名なDNAの2重らせんの
模型を前にするワトソンとクリックさん。
 もちろんノーベル賞受賞です。
 
ノーベル賞受賞 30周年記念フォーラム
 講演のあとはパネルディスカッションになりました。会場の方からの質問
も受けていただきなかなか興味深いディスカッションになりました。講演が
終わる頃には外は暗くなり、クリスマスを意識したホテルの前のイルミネー
ションや東京タワーの照明がきれいでした。