2004年01月の野球大好き!

宇城憲治さんの古武術講演会に参加して
 昨年末の高校野球研究会で、小林信也さんが紹介され日野高校の佐藤監督にも勧められて古武術の講演会に参加した。

 とにかく一度見て触れて見て欲しいということだったので楽しみにしていた。当日会場に行くと大学の野球部の大先輩が来ていてびっくり。健康と運動という観点から聞きに来たということだった。

 いよいよ宇城憲治さんの登場。小柄だがエネルギーがあふれていることは十分感じることができた。最初の1時間弱は古武術とスポーツの違いやどう生きることが大切かという哲学的なことを歴史上の人物をとおしてお話しされた。歴史に疎い私はその話がどうなのかはあまり理解できていないかもしれない。でも沖縄の武術は武器を持たず、基本的の争わない。徳川時代が続いたのも争わずに国をまとめることのできる人がいたからであるし、明治維新の立役者もできるだけ血を流さない事を考えた。力で行けば、力で返される。アメリカのように「目には目を、歯には歯を」のような考えではいつまでたっても紛争は解決できない。イラクで証明されている。その前のベトナム戦争でもわかっているはずなのに同じ過ちを繰り返すアメリカ。人間。これからの武術家は哲学を持たねばだめだといっていた。その通りだと思う。

 分析することの無意味さも説いている。科学的トレーニングで上半身、下半身を鍛える。メンタルも鍛える。パーツ・パーツを鍛えれば全体としていいパフォーマンスができるという考えの矛盾を説く。体は各部分が別々に動きながらひとつの動きになるのではなく、総体的・統一的に動くものなのだ。確かにいえる。いくらパワーを鍛えても当たらない人がいる。しかし、パワーだけでホームランを打ってしまうこともある。全体的な正しい身のこなしを追求するのか一時的なパワーで勝つことを目的にするのか。その人の考え方の問題になる。

 そして、いよいよ実演だ。空手をやっている人、アメラグのひと、野球の人、それぞれの目的で古武術に触れにやってきている。最初は体のバランスを意識すること。何も考えないで立っていると後ろから押されると簡単に倒れてしまう。しかし、片手をあげただひとつの指に集中するとあら不思議。体が安定するのだ。それを両足のつま先かかとを意識して右左前後に揺らいでいると指に集中したときと同じ現象が起きる。

 つぎに見えない水晶玉と目の力を体験する。押されないように抵抗しようとしている相手に、自分の胸の前にある水晶玉から見えないビームを送り、相手の目に入っていくとあら不思議。簡単に相手を押すことができる。腕相撲やしっかりもったバットを軽く持ち上げてしまう事も可能だ。そのときはわからなかったがそのあといろいろな人に試したり野球部の生徒に対して披露したり同じ体験をしてもらったがすべてに流れている基本が少しわかった気がする。相手をどうゼロの状態にして自分の力を速く最大限に作用させるかが勝負なのだ。

 身の回りの情報量は毎秒10億から1000億ビット。言葉にすると16ビットから40ビットになってしまう。目は10万から100万ビットの情報を得ることができるのだ。目は大事だ。

 とにかく力を入れること、呼吸を止めてしまうことが動きに関しては非常に悪影響を及ぼす。というか一瞬の動きに対応することができないことがわかった。ひねってためた力をひねり戻して作用させるのは大きなパワーを必要とする。古武術の世界は体幹をしっかりさせ、自然な呼吸体得し、一瞬に最高のパフォーマンスを引き出す可能性が高いことがわかった(気がする)。

 この講演会を終えて、ちょうど行われていた大相撲初場所を見ていたら、横綱朝青龍の相撲がまさしくこの古武術の動きに見えた。相手が一生懸命力一杯向かってくる力をゼロにしてしまい。ちょっとした力で相手を投げ倒したり、押し出したりする技術。動き。琴光喜を投げ飛ばした相撲。14日目の千代大海との一番。そしてなんといっても千秋楽の栃東戦。何もしないうちに栃東が外に出てしまっていた。

 この古武術を野球に生かすにはどうすればいいか?まだまだ解答は得られていないが、アメリカ的な運動力学ではない何かがあると実感することができた講演会だった。さっそく学校へ帰って試してみた。部員たちは非常に興味深そうに私の話を聞き不思議な体験をしてみることができた事は事実だ。いろいろ試していきたい。

(2004.01.30)

夢の向こうに!
 2004年1月8日、歴史的な行事が行われた。日本野球機構・日本プロ野球選手会・日本高等学校野球連盟の共催による現役プロ野球選手によるシンポジウム「夢の向こうに」というイベント。昨年関西ですでに行われていたがその関東版だ。

 プロ野球選手と高校球児は非常にゆがんだ関係にある。プロとアマとの過去の不幸な事件からプロ野球選手は高校生に技術的な指導ができない。自分の母校に行くことはあっても技術指導はしていない。ヤンキースの松井選手も星稜高校に毎年帰るが直接指導することはできないのだ。これが親子であってもだ。野村さん・長嶋さんもそうだった。

 そんな状況の中、本当に歴史的なイベントが行われることになった。この知らせを受けたとき真っ先に申し込みをした。人数制限があり部員全員が参加することはできなかったがぜひ来年も行って欲しいイベントだ。選手が入場するときの興奮度は最高潮だった。スタンドから応援するのではなく直接話を聞いたり、指導を受けることができるということだけで熱くなる。会場に来ていた2000人以上の関東地区の高校生は幸せだと思う。

 実際に参加した選手たちは次の方たち。司会は栗山英樹さんだった。

    巨人     工藤公康投手 高橋由伸選手
    ヤクルト   古田敦也捕手 宮本慎也選手
    横浜     三浦大輔投手 佐伯貴弘選手
    西武     松坂大輔投手 和田一浩選手
    千葉ロッテ  小坂 誠選手 清水将海捕手
    日本ハム   岩本 勉投手 小笠原道大選手

 3時間は長いだろうと思っていたがあっという間に時間が過ぎた。
 プロ野球選手が野球の事を真剣に考えていることが改めてわかったし本当に有意義な3時間だった。いろいろな話の中で印象に残ったこと、勉強になったことを書いてみる。

 栗山さんが高校生の質問をパネリストにしていく形式。まずは投手・捕手編。高校時代のどんなことが今につながっているのかというところでは工藤選手の、椅子に座るように投げるということ。松坂投手のゆっくりホームベースに置かれたボールめがけて投げたこと。岩本投手の人のまねから入るということが印象的。そして、工藤投手がどれだけ体のケアや体の使い方・呼吸法に気をつけているかがわかった。特に股関節のインナーマッスルを鍛えること。体幹という言葉。「リズム・バランス・タイミング」が大切というのがインパクトがあった。おちゃらけイメージの工藤投手の貪欲なまでの探求心に感服した。松坂投手は体幹をしっかりするには腹筋背筋をしっかり鍛えることが一番といった。あとは指先の感覚が繊細なんだなと感じた。

 古田捕手は、捕球の仕方についての貴重なアドバイスをいただいた。
捕球方法や送球の方法も一般的にいわれているのとは違うやり方だった。これを教えてもらえることが嬉しい。

 野手編では、宮本選手の「ボールの右側を見ながらとる」というのが印象的。よく体を入れろという表現を使うが全く違った表現をしてくれてわかりやすかった。真夜中にボールを持たないでイメージトレーニングしていた高校時代の話もよかった。
 
 意外に思ったのは、高橋由伸選手の言葉。高校時代に学んだことはという問に「感謝の心」を忘れないこと。キャッチボールは相手の捕りやすい球をという言葉。テレビの印象とは違う真摯な姿勢が見えた。佐伯選手が「身だしなみが大切」といったのも印象的。がむしゃらにやることも大切。失敗をおそれていたら何も変わらないし何もできないという言葉もインパクトがあった。

 打撃理論は、なかなか難しいと思った。それぞれの選手が違った感覚で打っている。どれだけイメージして打てるか。瞬間的な判断ができるかが勝負のような気がした。

 全国13万人のうち東京・大阪の2カ所4500名の球児たちだけに与えられた幸運。こんな機会が今後とも続けていけるようなプロとアマの関係でいて欲しいと祈らずにはいられなかった。

 このイベントに参加できたことが本当に嬉しい。ありがたいと感じる。夢を与えられるプロ野球であって欲しいし、自分の可能性を信じて一生懸命好きな野球に取り組んでいく高校野球であり続けて欲しいと思った一日だった。

(2004.01.08)

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