2004年10月のひとこと

「夜回り先生」水谷修先生の講演会
 縁があって「夜回り先生」こと水谷修先生の講演会に行ってきました。感じたことを書いてみます。

 まずは、水谷修先生のプロフィールから。(パンフレットより)
 1956年横浜市生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。今年9月まで横浜市の高校教員。教師生活のほとんどを少年の非行・薬物問題に捧げ、「夜回り」と呼ばれる深夜パトロールを行いながら、若者の更正に尽力。また各種メディアの出演や日本各地での講演を通して少年非行の実態を広く社会に訴え続けている。第17回東京弁護士会人権賞受賞。主な著書に「夜回り先生」(サンクチュアリー出版)
「さよならが、いえなくて」(日本評論社)「さらば、哀しみの青春」(高文研)など。
水谷修HP「春不遠」
http://www.koubunken.co.jp/mizutani/main.html
「夜回り先生」公式HP(サンクチュアリー出版)
http://www.sanctuarybooks.jp/mizutani/

 高校の定時制教員として仕事をする傍ら、夜は12年前から新宿や渋谷での「夜回り先生」として活動を行い5000人の子供と向き合い、暴走族、ドラッグやシンナー、売春、リストカット、万引きなどの問題を抱える子供達と会話を重ねてきた。現在TVやラジオなどに出演している。著書も19冊ほど出版している。10月27日(水)21時TBS系でドラマ「夜回り先生」放送予定。「夜回り先生」漫画化、10月25日発売予定。

 以下は、著書「夜回り先生」からの 抜粋です。

 私はよく子どもたちに「いいんだよ」と言う。

 「おれ、窃盗やってた」いいんだよ
 「折れ、暴走族やってた」いいんだよ。
 「おれ、いじめやってた」 いいんだよ。
 「わたし、シンナーやってた」いいんだよ。
 「わたし、いえに引きこもってた」いいんだよ。
 昨日までのことは、みんないいんだよ。

 「おれ、死にたい」「わたし、死にたい」でもそれだけはだめだよ。
 まずは、今日からいっしょに考えよう。

 どんな子どもに対しても、まずは彼らの過去と今を認めた上で、
 しっかり褒めてあげてほしい。
 よくここまで生きてきたね、と。
 生きてさえすれば、それだけでいいんだよ。

 さて、講演会を聞いての感想です。定時制の先生と聞きに行きました。実は前日というか当日の深夜にNHK教育TVのETV特集で「夜回り先生」の特集をやっていました。私ははじめちょっと鼻についていました。が、番組が進むにつれて水谷先生のすごさがわかってくる気がしました。講演会の様子や江川紹子さんのインタビューなどはインパクトがあり、講演会の予習ができた感じでした。

 なぜ、夜回りをするようになったのか。その話から始まりました。優秀な学校で約10年教えていたのですが、ある時同級生から相談を受け、定時制高校の生徒はくずだといった同級生をやめさせるほど怒りそれがきっかけで定時制の先生になりました。当時横浜市立港高校は定時制高校ながら全校生徒800名。暴力団養成学校と呼ばれる学校だったそうです。自信を持っていた授業がまったくなりたたない。人間関係ができていなくては話にならなかったのです。授業や部活動がおわったあと夜の街に生徒達との人間関係をつくるために出かけていくようになりました。保護者であるべき大人が保護者になれない人がいる。大人が自信を持てなくなっている時代、楽しそうじゃない時代には子供達は大人になりたくなくなる。

 水谷さんの話はすべて実際にあった話です。あり得ないと思われる家庭環境にいる子が出てきます。マサフミは3歳で暴力団員の父を亡くし母親の手ひとつで育てられました。その母親が小学校5年の時に寝たきりになり、電気ガス水道を止められ担任の先生が気づくまでの8ヶ月をコンビニで弁当をもらい、給食のおばさんに猫にえさをやるからと嘘を言って余り物をもらって食いつないでいました。それが同級生にばれていじめにあいます。それを助けてくれたのは暴走族のにいさんたち。一気に暴走族に入ってシンナーにおぼれていきます。水谷先生は自宅にマサフミを泊めたりしてシンナーをやめさせようとしますが、なかなかできない。タカシは自分で薬物中毒を扱う病院を探してくるのですが水谷さんはそのことに怒りを覚え、マサフミを嘘までついて帰してしまいます。「今日の水谷先生、冷てえなあ」の一言が最後の言葉となりました。シンナーを吸ってフラフラになってダンプカーに飛び込み、帰らぬ人となりました。このあと薬物専門の病院の先生に「あなたが殺したんだよ」といわれます。この事件で薬物は愛ではやめさせられない。薬物についてもっと勉強して社会の人たちにわからせていかないといけないのだとおもった水谷さんは、猛烈に勉強しいままで出なかったマスコミにもで全国で講演するようになりました。夜の世界にどっぷり入っていきました。先生は、今までに23人殺しましたといいます。自分の関わった5000人の中で23人の命を救えなかったと言うことで苦しんでいます。水谷さんのせいではないのに。

 先生は24時間メールや電話を受け付けています。今年の2月からはほとんど寝ていない状況が続いています。薬物について取り組んでいるうちに、3年前リストカットする子と関わるようになりました。十分な愛情を受けられず社会にも不満を持つ子は夜の世界に飛び出していき暴走族から薬物へと行きます。しかし、おとなしい子はリストカット、そしてODへと行きます。優しい子は不満を外にぶつけられず自分を責めます。そしてリストカットします。死ぬために手首を切るのではなく生きるために切るのです。そして精神科や心療内科安定剤を処方されその薬を大量に飲んでしまうのです。夜眠れない子が増えているそうです。このところはリストカットするこの相談が非常に多いそうです。こんな相談を24時間受けて対応していたら先生を続けることはできないでしょう。9月で退職し、夜の世界の生活に突き進んでいます。

 今、覚醒剤乱用期と言われています。今までで一番の危機的状況だそうです。1994年に70万人だったのがいまや130万人。70人に一人が覚醒剤をやっている勘定になります。2人に1人が薬物をやっている人を知っている。4人に1人は今後誘われる可能性がある。35人に1人は実際に使うことになる。と言われているそうです。暴力団が一般市民にも手を出し始めているというのです。

 薬物乱用者の1:3:3:3というのがあります。1割は死ぬ。3割はやめることができる。3割が病院や刑務所。3割が行方不明。恐ろしいです。薬物は人を3回殺します。1回は心を殺す。気力がなくなり、やさしさや思いやりをなくします。2つ目は頭を殺します。乱用者はいつも「どこでやろう。いつやろう。どうやって手に入れよう」しか考えられなくなります。恋人の愛情も効果がありません。逆にその恋人を巻き込むことになります。3つ目は肉体を殺します。そして、死に至ります。真面目な子ほど深みにはまるらしいです。自分を責めて雑巾にされHIVに感染し亡くなっていった女の子の話もされました。壮絶な死です。

 薬物はなぜダメなのか。それは努力せずに最高の気分になれるからです。いやなことを忘れさせてくれるのです。幸せは努力してつかむもの。努力しないで幸せになろうとすればその先には破滅しかありません。

 水谷さんの話を聞いていると何とも苦しくなります。子供達の悲しい現実。それに立ち向かうために力を貸している水谷さんも苦しい。その鬼気迫る講演は皆の胸を打ちます。でも苦しい。何ともいえません。

 そんな話のまとめにこれからどうしていったらいいのかと言うことになりました。やはり、まずは子どもを褒めるところからはじめる。そしてまずはあいさつから。褒めてできたら抱きしめてあげる。これが愛情です。親の子どもに対する愛情は無償の愛なはずです。日頃ガミガミ怒ってしまうことが多いものですが、自分の子どもに対しても生徒に対してもいいところを見つけられ褒められる人間になりたいと思いました。
あいさつ運動で街がかわった事例も挙げられました。一人暮らしのおばあさんが生徒達があいさつすることで生きる意味を感じることができるようになったとお礼状が届いた話は心が温かくなりました。

 何気なくふとしたきっかけで聞きに行くことになった講演でしたがいろいろな意味で考えさせられたり勉強になったりとても有意義な一日となりました。今後の水谷先生のご活躍をお祈りしたいと思います。そしてくれぐれもお体には留意されるように願いたいです。素晴らしい講演をありがとうございました。

(2004.10.23)

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